ポータブルアンプやDAPに、ボリュームつまみ以外につまみが付いていることがありますよね。製品仕様にも「ゲイン調整可能」などの記載があったり、何かと出てくるのが「ゲイン」です。
言葉は知っているという人が多いでしょうが、ゲインがどんな役割をしているのか、どう使えば良いのかはあまり知らないという人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、ゲインについてボリュームとの違いも交えながら詳しく解説していきます。
目次
そもそもゲインとは? ボリュームとの違い
ゲイン調整の使い方の前に、まず、そもそもゲインとは何かについて説明していきます。ボリュームとの役割、仕組みの違いもわかりにくいところですよね。そこも踏まえながら、ゲインとボリュームについて説明しましょう。
ゲインとは入力信号を制御するもの
ゲインというのは、一口に言ってしまえば、入力信号を制御するものです。
ゲインは、アンプに入ってくる電気信号をコントロールします。
コントロールと言っても、抑えるというイメージではありません。実際に行うのは、信号の増幅です。
どれだけ信号を大きくするのか、を「ロー」・「ミドル(ノーマル)」・「ハイ」の主に三段階で調整してくれます。
電気信号が増幅することで、アンプに入ってくる音量が大きくなるんです。
ボリュームは抵抗を制御するもの
ゲインは入力信号を増幅することにより、音を大きくしてくれると説明しました。
一方ボリュームは、出力時の抵抗を制御する役割があるんです。抵抗は、Ωで表されます。小中学校の理科でも習うことなので、抵抗がどういうものか知っている人は多いでしょう。
抵抗が大きくなれば、電流が流れにくくなります。抵抗が小さくなれば、電流が流れやすくなるんです。
抵抗とは、どれだけの電流を通すのかを決定づける要素になっています。
例えて言えば、電流の門番のようなものです。
何十人もの人間が門に押し寄せてきたとして、みんな門番に殴りかかったとします。門番のガタイが大きくて強ければ、より多くの人間を足止めできるでしょう。門番がひ弱であれば、より多くの人間を通してしまいますよね。
このイメージです。
抵抗が大きければ音量は小さくなり、抵抗が小さければ音量は大きくなります。
ただ、抵抗について少し知っている人は「抵抗は変えられないのでは?と思うかもしれませんね。
ボリュームつまみには、可変抵抗器というのが使われています。名前の通り、抵抗値を変えることができるものです。これにより、ボリュームつまみを動かすことで抵抗値が変わります。
ゲインとボリュームの違いまとめ
ここまでゲインとボリュームについて説明してきましたが、まとめるとこうです。
- ゲイン:入力信号を増幅する役割
- ボリューム:出力時の電気信号を小さくする役割
ボリュームにも上げ下げがありますが、基本的にはボリュームは音を下げるものだと考えられています。音量マックス(抵抗最小)を基準とし、どれだけ抵抗を上げて音量を下げるのかという考え方です。
一方ゲインは入力信号を増幅して音を大きくするもの。
両方ともに「音量調整」ではありますが、行っている作業は全くの真逆ということですね。
ゲインを調整する意味とは?
ゲイン調整は入力信号を増幅していると語りました。ボリュームは、出力信号を抵抗で抑えています。
この2つをどう使えばいいか、どのような意味があるのかが重要なところです。それをこれから、順を追って説明していきます。
インピーダンスと音圧感度が関係している
ゲイン調整とボリューム調整との関係性や、調整する意味を語るなら、インピーダンスと音圧感度についても語らないといけません。イヤホンやヘッドホンの仕様を見ると、必ずと言って良いほど書いてあるんです。
ここでは、イヤホンとヘッドホンのインピーダンスと音圧感度について説明します。
インピーダンスは抵抗(Ω)のことです。つまり、インピーダンスが高いと音量が大きくなりにくくなります。
スマホで音楽を聴く際、どれだけ音量を上げてもイヤホンだと小さく聞こえるということがあるでしょう。逆に、音量を下げても大きく聞こえる場合もありますよね。
前者は高インピーダンスなため、後者は低インピーダンスなため起こる現象です。
音圧感度は、db/mW(デシベル・パー・ミリワット)で表されます。
詳しく語ると難しい話になりすぎるのですが、簡単に言えば「音圧感度が高いと音量が大きくなりやすい」ということです。感度が良い、と言えばわかりやすいかもしれませんね。少しの電気信号でも敏感に大きく反応するため、音が大きくなりやすくなります。
つまり、高インピーダンスで音圧感度が低いイヤホンを使うと音が小さく感じるということです。
逆に低インピーダンスで音圧感度が高いイヤホンを使うと、今度は音が大きく感じられます。
これを調整するのに、ゲインが役立つんです。
ハイゲインにすると音を増幅できる
ハイゲインはどういうときに使うのか。
ここまでの話で気づいている人もいるかもしれませんが、説明します。
ハイゲインは主に、高インピーダンスのイヤホンを使うときに使うんです。高インピーダンスだと音が小さく感じられるため、ハイゲインにして入力信号を大きくし音量を大きくします。
ただ結構大きくなるので、ボリュームは少し下げる必要があるんです。ローゲインの役割を語る際に詳しく説明しますが、ボリュームを上げて使いたいという人もいるので、敢えてハイゲインを使わない人もいます。
また、解像度が高いイヤホンを使う際、ローゲインだと解像度が高くなりすぎて疲れるというとき、敢えてハイゲインにするという使い方をする人もいます。
ローゲインにするとボリュームを高くできる
ローゲインは、入力信号が小さくなるためボリュームを高めにできます。低インピーダンスのイヤホンで、ボリュームを上げたいときに使う事が多いです。
基本的に、ボリュームを高めにしている方が音質的に有利だとされているんです。
理由はさまざま。主に低音にあります。
低音は、音が小さくなればなるほどに聞こえにくくなるんです。音量を少し下げると低音が減り、また下げるとまた減る…。そしてボリュームを最小にまですれば、低音なんて全くと言ってよいほど聞こえなくなります。
手持ちのスマホなどで、試してみてください。ボリュームが大きい方が、低音がより良く聞こえますよね。
それどころか、全体的に音の種類が増えたように感じられるでしょう。
これが、ボリュームが高めのほうが音質的に有利だと言われている理由です。
ただ、低インピーダンスのイヤホンだと、どうしてもボリュームを下げる必要がありますよね。
ここで音の種類が減るのは嫌なので、ゲインを下げておいてボリュームを高めにするんです。こうすることにより、音質的に有利な状態を作り出すことができます。
ローゲインのほうが歪みにくい
基本的なゲイン調整の意味は先述したとおり、使っているイヤホン・ヘッドホンに応じて音質環境を最適化することにあります。ゲインがあれば、どんなイヤホンを使っていても相性が悪くなりにくいので、DAPにゲイン調整があることを嬉しがる人が多いんです。
さらに、ゲインによって音の歪みも変わると言われています。
ローゲインのほうが歪みにくいんです。
解像度が高すぎて疲れるから敢えてハイゲインにするというのは、敢えて若干歪ませることによって疲れにくくするという意味があります。
ゲインの使い分けの例
ここまでの内容をまとめてみましょう。
基本的な使い分けとしては、ローゲインは低インピーダンスのイヤホンを使うときに用います。理由は、ボリュームを高めに維持して音質的に有利にするためです。
ハイゲインは、基本的に高インピーダンスのイヤホンを使うときに使います。ボリュームを上げても音量が十分に上がらないことがあるため、入力信号を大きくすることで音量を引き上げるのが目的です。
さらには、人によっては敢えてハイゲインで歪みを発生させて聞き疲れを防止するなどの目的を持つ場合もあります。
ゲインと音量調整で再生環境ごとに最適化できる!
ここまでゲインとボリュームについて説明してきましたが、覚えてしまえばとても簡単なことです。ゲインとボリュームの両方を調整することで、自分が使っているイヤホン・ヘッドホンごとに最適化ができるということ。
ポタアンにはゲインが付いているのが当たり前ですが、DAPには付いていないこともあります。
自分の使っているイヤホンのインピーダンス等がよくわからない場合は、とりあえずゲイン付きのを買っておくと良いでしょう。
購入後に3段階のゲインを全部試して、最適なのはどれかを感覚で決められますから。
実際、同じ程度の音量で聴いた場合、ゲイン調整した音とボリューム調整した音では音の質感自体が異なってきますよ。
入力信号と出力信号をしっかり調整して、再生環境ごとに音を最適化しましょう!